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浦和地方裁判所 平成2年(わ)54号 判決 1990年9月05日

本店の所在地

埼玉県大宮市桜木町二丁目一二五番地

法人の名称

株式会社瑞穂

代表者の住居

埼玉県大宮市南中丸五七-一

代表者の氏名

林義昭

本籍

群馬県高崎市江木町三九番地の三

林義昭

昭和二二年一〇月二九日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社瑞穂を罰金六五〇〇万円に、被告人林義昭を懲役一年二月に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社株式会社瑞穂(設立時(昭和六〇年一二月二三日)の商号は株式会社太利根建設、昭和六二年六月三〇日株式会社瑞穂に商号変更)は、埼玉県大宮市桜木町二丁目一二五番地に本店を置き、土地、建物の売買及び仲介等を目的とする資本金九五〇〇万円の株式会社であり、被告人林義昭は、同会社の設立時から昭和六一年五月五日までの間、及び平成元年八月二日以降は代表取締役として、その余の期間は実質上の経営者として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人林は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地売上代金の一部を違約金収入のように仮装し、受取手数料収入の一部を除外し、あるいは共同事業分配金等を架空計上するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六〇年一二月二三日から同六一年一〇月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億七六八四万六九二六円で、課税土地譲渡利益金額が二億〇九三九万五〇〇〇円であったのにかかわらず、同年一二月二七日、同市土手町三丁目一八四番地所在の所轄大宮税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億三三〇四万六九二六円で、課税土地譲渡利益金額が一億六四九三万九〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億三二九九万四七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告人会社の同事業年度における正規の法人税額一億六〇八五万一三〇〇円との差額二七八五万六六〇〇円を免れ、

第二  昭和六一年一一月一日から同六二年一〇月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一三億〇八九二万二〇六三円で、課税土地譲渡利益金額が八億四五六二万二〇〇〇円であったのにかかわらず、同年一二月二八日、前記大宮税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九億四二六三万〇〇六三円で、課税土地譲渡利益金額が一億六七五三万四〇〇〇円であり、これに対する法人税額が四億二八四五万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告人会社の同事業年度における正規の法人税額七億一七九一万一六〇〇円との差額二億八九四六万〇二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成二年一月一一日付け、同月二二日付け及び同年二月六日付け(二通)各供述調書

一  林美穂子の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  検察官作成の報告書

一  大蔵事務官作成の回答書

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書二通

一  登記官作成の登記簿謄本(役員欄の用紙の謄本を含む)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する平成二年二月三日付け供述調書

一  一條常夫、高橋厚、竹内猛(三通)中井雅夫、村沢義一、小峯クニ、栗原國起、渋谷勝之及び牧野信太郎の検察官に対する各供述調書

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する平成二年二月一日付け、同月二日付け同月四日付け及び同月五日付け各供述調書

一  松澤正義の検察官に対する平成二年一月一一日付け及び同年二月六日付けのものを除く供述調書七通(ただし、平成二年二月二日付けのもの二通はいずれも原本、他五通はいずれも謄本)

一  長岡国男(四通)、内田清(二通)、氏王忠司、完戸武司(二通)、砂川荘一、松澤正義(平成二年二月二日付けで六枚つづりのもの)、黒沢与四夫、伴義博(二通)、山本久男、金井孝明こと金京河、石井秀幸(四通)、杉原利貞、鈴木昭裕(二通)、佐藤鐡男、内山正純、渡辺隆及び堀敏治の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の違約金調査書、売上調査書、受取手数料調査書、共同事業分配金調査書、未納事業税調査書及び事業税認定損調査書

(累犯前科)

被告人林義昭は、昭和五五年九月一七日、前橋地方裁判所高崎支部で、暴力行為等処罰に関する法律違反、凶器準備集合、わいせつ図画販売、道路交通法違反、有印私文書偽造、偽造有印私文書行使罪により、懲役三年に処せられ、昭和五八年七月二八日、右刑の執行を受け終わったものであって右事実は、検察事務官作成の前科調書及び昭和五五年九月一七日宣告の前橋地方裁判所高崎支部の判決謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為は判示第一及び第二の事業年度ごとに、いずれも法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については、情状により、同法一五九条二項を適用し、被告人林義昭については、所定刑中懲役刑を選択し、被告人林義昭については、前記前科があるので、刑法五六条一項、五七条により、判示第一及び第二につき、それぞれ再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で、罰金六五〇〇万円に、被告人林義昭については、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、懲役一年二月に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、土地、建物の売買及び仲介等を目的とする被告人会社の代表取締役又は実質上の経営者として同会社の業務全般を統括していた被告人林義昭が、被告人会社設立当初、これといった資金源のない状況下において、急激な事業拡張を目論見、その地上げのための資金を得ることや交際費・飲食費等をねん出するといった動機から、

(一)昭和六一年一〇月期(判示第一)において、大宮市宮町の土地を、東光商事及びベントレージャパンとの共同事業で、小峯クニらから地上げし、これを鹿島建設に売却した取引に関し、倒産会社である国光及び共立から、架空の領収書を買い取り、これらの会社に仲介手数料を支払ったかのごとく装って、合計四三八〇万円の支払手数料を架空計上し、

(二)昭和六二年一〇月期(判示第二、以下同じ)において、大宮市桜木町の土地を、栄光開発との共同事業で松栄不動産に売却し、その売買代金の一部である四億六〇五〇万円を、違約金に仮装して、売上高を同額分不正に圧縮し、

(三)岩槻市徳力の土地を、スナカワホームから仕入れ、これを住産に売却した取引に関し、その売買代金のうち、実測面積の増歩分である一八一八万円を売上高から除外し、

(四)大宮市下町の土地を、金杉シゲ子らから地上げし、これを松栄不動産に売却した取引に関し、三栄興業と共同事業を行った事実がないのに、同社と共同事業を行ったように仮装し、内容虚偽の共同事業協定書を作成して、三栄興業に対する共同事業分配金として、一億八一五六万円を架空計上し、

(五)右大宮市下町の土地を、松栄不動産が栄光開発に売却した取引に関し、実際は被告人林義昭自らが仲介しているにもかかわらず、(株)スズキアテナがその仲介をしたように仮装して、松栄不動産から、架空の仲介手数料一億三五〇〇万円を、(株)スズキアテナに入金させた上で、被告人会社が、同額の金員を受け取ったのに、同額の受取手数料を除外し、

(六)川口市戸塚東の土地を、松栄不動産から買い受け、これを関東バイオメディカル研究所に売却した取引に関し、丸善興産と共同事業を行った事実がないのに、同社と共同事業を行ったように仮装して、内容虚偽の領収書を買い取り、丸善興産に対する共同事業分配金として、二五〇〇万円を架空計上し、

(七)上尾市井戸木の土地を、渡辺製作所から買い受け、これを栄光開発に売却した取引に関し、丸善興産から架空の領収書を買い取り、同社に仲介手数料を支払ったかのごとく装って、二〇〇〇万円の支払手数料を架空計上し、

以上合計八億八四〇四万円から、

(一)前記(二)の土地について売上高に加算する代わりに違約金収入分を減算する金額である四億六〇五〇万円、

(二)前記(三)の土地について雄和ハウスに対して支払った簿外手数料三八〇万円、

(三)昭和六二年一〇月期における事業税認定損である九六四万八〇〇〇円

を差し引いた残額の四億一〇〇九万二〇〇〇円の所得を秘匿し、その法人税三億一七三一万六八〇〇円を逋脱したもので、その逋脱率(逋脱税額割る正規の税額の割合)については、判示第一が一七・三パーセント、判示第二が四〇・三パーセントに及ぶという事案である。

このようにして、本件犯行は、その秘匿した所得金額及び逋脱した税額が極めて多額に上るうえ、本件犯行の中核をなす判示第二の逋脱率は、四〇パーセント台に達しており、しかも、被告人林義昭は、資金繰りに困ったり、外圧に見舞われたこともあったにせよ、前記のとおり、架空の領収書を買い取って支払手数料を架空計上し、違約金に仮装して売上高を圧縮し、実測面積の増歩分を除外し、内容虚偽の共同事業協定書を作成したり内容虚偽の領収書を買い取ったりして共同事業分配金を架空計上し、他社に入金させて受取手数料を除外し、架空の領収書を買い取って支払手数料を架空計上するといった巧妙な手段を用いてその所得を秘匿しており、また、一部を除き、被告人林義昭自ら脱税行為を実行し、ときに強引ともいえる逋脱の手段をとっているのであって、その手段犯情において悪質といわざるを得ず、しかも、被告人林義昭は、前記累犯前科を有するほか、これまでに、業務上過失傷害、監禁、恐喝、銃砲刀剣類所持等取締法違反、窃盗、有価証券偽造、同行使、詐欺、強盗、公正証書原本不実記載、同行使により、懲役刑二回、罰金刑一回を受けており、判示第一の犯行は、前記累犯前科となった刑の執行終了後三年半足らずの間に行ったものであって、本件が右各前科と同種のものではないにしても、その遵法精神の欠如には大きなものがあるといわざるを得ず、その刑事責任は重いというべきである。

しかし、他方、被告人林義昭は、捜査段階においては、本件犯行の一部を否認したこともあったが、公判段階においては、その犯行のすべてを認めて反省している上、本件犯行の中核をなすものではないにしても、判示第一の逋脱率は、一七・三パーセントにとどまっており、また、逋脱の態様等において、中には、従属的であったものや、必ずしも利得として残ったものばかりとはいえないものもあるところ、査察後、修正申告をした上で、本件逋脱額を含む合計一二億四三六三万五〇〇〇円を納付して反省の態度を示した上、今後は新しい会計士の指導を受け、税金はきちっと払う旨誓い、その職場にあっては、決断力と行動力に富み、若い社員の人望も得ており、その家庭にあっては、子煩悩で妻にも優しく、本件を契機に離婚した妻が復籍して子どもを含めた三人の家庭に戻ることとなり、さらに、会社を経営し市議会議員もしている妻の父は、被告人林義昭やその家庭を優しく見つめる態度でおり、そのほか、被告人林義昭は、幼くして両親や姉と死別し、伯父の世話を受けながら中学校を卒業した後、憧れて暴力団の世界に入ったが、服役を繰り返すうち、人並みの生活をする気になり、暴力団から足を洗って、再出発するべく、本件の不動産業へと入って行ったものであって、その真人間への決断には敬服すべきものがあり、以後、本件を除いては、犯罪を行っていないなど被告人林義昭にとって有利な事情も見受けられる。

しかしながら、以上で述べた本件犯行の重大性及び本件犯行前後の諸般の事情を勘案するときには、実刑はやむを得ないものというべきであるが、右に述べた弁護人主張の被告人にとって有利な事情を酌んで、主文掲記の量刑とした次第である。

(求刑 被告人会社につき罰金一億円、被告人林につき懲役二年)

よって、主文のとおり判決する。

(検察官 長谷川紘一 弁護人石川博光(主任)、丸物彰、原島康廣)

(裁判官 大島哲雄)

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